(1)短期売買商品等の意義(法61①)

 

 

1.短期売買商品

短期売買商品とは、短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的(短期売買目的)で取得した資産として次に掲げるもの(有価証券を除く)をいう(令118の4)。

イ.短期売買商品の性質は売買目的有価証券と類似しているが、上記定義にあるように有価証券は除かれているため、有価証券には該当しない。

ロ.また、棚卸資産にも類似しているが、棚卸資産の定義規定(法2二十)において、「短期売買商品等は除く」と規定されているため、棚卸資産にも該当しない。

ただし、金、銀等の売買を業としている販売業者が所有しているもので短期売買商品に該当しないものは、棚卸資産に該当するのであるから注意を要する。

 

 

2.暗号資産

従来、ビットコインなどに代表される通貨のことを「仮装通貨」と呼ばれていたが、最近は「暗号通貨」(Cryptocurrency)と呼ばれている。法人税法上は「暗号資産」という用語が使用されている。

法人税法上、暗号資産とは、資金決済に関する法律第2条第5項に規定する暗号資産をいう(法61①)と定義され、具体的には通常の通貨機能と同様に財産的価値を有し、他の通貨との交換、送金、決済、保有、投資を行うことができ、これらはすべてネット上の電子情報処理組織(電子データ)を用いて行われる。

暗号資産は、棚卸資産及び固定資産の範囲から除外されている(法2二十、令12)。

 

 

(2)短期売買商品等の譲渡損益の計算

1.譲渡損益の認識・計上時期

短期売買商品等の譲渡損益は、原則として譲渡契約をした日の属する事業年度において益金又は損金に算入される(法61①)。

 

2.譲渡原価の算出方法(法61①、令118の6①)

譲渡原価の一単位当たりの帳簿価額の算定方法は、次の方法による。

 

3.算定方法の手続

①算定単位の選定

短期売買商品の場合は種類(金、銀、白金等)、暗号資産の場合は銘柄(ビットコイン、リップル、ビットフライヤー等)の同じくするものごとに選定しなければならない。

②選定した算定方法の届出

短期売買商品等を取得した場合には、その取得の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに、算定方法の届出書を所轄税務署長に届け出なければならない(令118の6④)。

③選定した算定方法の変更

変更予定事業年度開始の日の前日までに「変更承認申請書」を所轄税務署長に提出し、その承認を受けなければならない(令118の6⑥)。

④法定算定方法(法61①二、令118の6⑦)

 

 

(3)収益計上時期

<原則>・・・契約をした日(法61①)

<例外>・・・継続適用を条件として、引渡しのあった日(基通2-1-21の2)

 

 

(4)期末評価

1.期末評価額(法61②、令118の8)

(※1)市場暗号資産

暗号資産のうち活発な市場が存在するものとして、次の要件のすべてに該当するものをいう(令118の7)

(※2)時価法

時価法とは、期末に有する短期売買商品等について、種類又は銘柄ごとに、価格公表者等が公表する期末時の価額(時価)等をもって期末評価額とする方法である。

①短期売買商品の時価

イ.価格公表者(注1)によって公表された期末日における最終価格(注2)

ロ.上記イ.の調整価格(注3)

(注1)価格公表者

商品先物取引法に規定されている商品の売買価格又は気配相場の価格を継続的に公表し、かつ、その公表価格がその商品の売買価格の決定に重要な影響を与えている場合の公表者をいう。

(注2)最終売買価格がない場合

(注3)調整価格

品質、所在地その他価格に影響を及ぼす条件の差異により生じた価格差につき必要な調整を加えた価格をいう。

 

②市場暗号資産の時価

(注1)価格等公表者

市場暗号資産の売買価格等を継続的に公表し、かつ、その公表する売買価格等がその市場暗号資産の売買価格又は交換比率の決定に重要な影響を与えている場合のその公表者をいう。

(注2)最終売買価格がない場合

期末日前最近の最終売買価格

(注3)最終交換比率がない場合

期末日前最近の最終交換比率

 

 

2.評価損益

評価損益は、その事業年度の益金又は損金に算入する。ただし、翌期首に洗替処理される。そのため、翌期首の帳簿価額は、評価損益計上前の帳簿価額となるので、翌期の譲渡原価には影響しない。例えば、

①当期末における移動平均法による原価   1,000

②当期末における時価           1,200

とすると、当期末において評価益200が当期の益金となるが、翌期首において、次のような洗替処理が行われるため、

翌期首の帳簿価額は、当期末における帳簿価額(1,000)に戻されるため、翌期の譲渡原価には影響しないこととなる。

 

 

(5)取得価額

短期売買商品の取得価額は、原則として次の金額となる(令118の5)。

 

 

(6)短期売買商品の売買業務の全部の廃止(※)に伴う取扱い(法61⑤)

(※)「短期売買商品の売買業務の全部の廃止」とは、反復継続して行う短期売買商品の売買業務(主たる業務又は従たる業務かは問わない)を行っている法人が、その業務を行っている事業所、部署等の撤収、廃止等をし、その業務を行わないこととした場合をいうので、単に、保有する短期売買商品の売却を行わないこととした場合はこれに該当しない(基通2-1-21の13)。

 

 

(7)暗号資産の区分変更(※)に伴う取扱い

(法61⑥、令118の10①、令118の8三、118の7一)

(※)「区分変更」とは、自己の計算において所有する市場暗号資産を市場暗号資産以外の暗号資産(「非市場暗号資産」という。)に変更した場合をいう。

 

 

(8)暗号資産の信用取引

1.意義

暗号資産信用取引とは、資金決済法に規定する(注)暗号資産交換業者(登録の有無は問わない)から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいう(法61⑦)。

(注)「資金決済に関する法律第2条第7項」規定

信用取引には、暗号資産交換業者から資金を借りて(信用)暗号資産を取得する「買付け」と、暗号資産を借りて(信用)売却する「売付け」があるが、これは、有価証券における信用取引と原理は同様である。

 

 

2.課税上の取扱い

①反対売買による決済時の譲渡損益額計算

②期末未決済に係るみなし決済損益額の計算

③みなし決済損益額の翌事業年度における処理

④デリバティブ取引(暗号資産FX取引や暗号資産先物取引など)の取扱い

以上の計算及び仕訳例については「第9章有価証券 Ⅴ.デリバティブ取引等」参照。