ベテラン会計士間の会話の中で出た話(公認会計士業界の課題)

2016年5月13日

公認会計士という職業に携わって本当にいい職業を選んだと思うが、後輩の監査業務を中心に仕事をしている中堅、若手の会計士は、締め付けが厳しく大変な状況であり、この業界に人材がどんどん来てくれるのかどうか解らない現状になっている。オリンパス、東芝等の巨額の長期にわたる粉飾を見抜けなかったとして、会計士という職業のブランド価値、社会になくてはならない価値感が暴落している。こんな中で何をしていかないといけないのか、出てきた話を以下メモする。

1.長期間の粉飾を見抜けない会計士ということだが、例えば5年間の間、全く違和感のないままに監査をしていたということは、実務を知っている立場から言うと滅多にない。

少なくても問題の兆候は何らかの形でチームの誰かが気が付いている筈。では、なぜ会計不正を見つけられなかったかというと、クライエントの担当者の説明が、これは問題事項ではないという巧妙な説明を受け入れてしまっていたこと、監査チームの上席に行くほど問題の指摘に慎重であり、説明が一応筋が通っていれば、そこで受け入れてしまっている。その際に現場担当とよく話し合い、追加の監査証拠を入手してからの判断ではなく、現場から遠くなっているパートナー、とくに法人の運営等に時間を取られ、現場に行けないいわゆる大物会計士が判断するときには、問題が出てくる。また現場に近い会計士は、上がそういうならということで矛先を収める、悪く言えば上の意向を忖度して監査の結論を出してしまう、ケースが起こるリスクがある。

2.このリスクを避けるためには、自分が納得できない事項があれば、深く検討する体制、システムを組んでおく必要がある。監査のラッシュ時に、監査調書も仕上げながら、審査対応もしながらぎちぎちの時間で仕事をしていると、実質的に現場は対応できない。このような場合に組織としてどういう仕組みを用意していくか、もちろん必要な人材コストも許容したうえで監査業務を進めること、価値観を現場に持ってもらうことが必要。業務の中で赤字業務を作るとマイナス点になるような評価制度が災いになるときもある。

正当な理由であれば、かかったコストはクライエントに請求することが必要である。必要な監査業務時間の確保は、本来株主から付託されている責任を果たすために必要であり、クライエントの管理部門長等から制約される筋合いのものではない。合理的な理由によるものなら、監査役と協議して決めるべきものであるが、ここのところが実務で的確にできていない現場も多い。

3.監査報酬は、会社が払い、その額の承認は、経営者、管理部門担当役員等が支払承認されている。しかし経費はなるたけ少なくという観点でコントロールされるべきものではない。日本の上場会社等の経営者の中では、まだまだ監査報酬は必要な経営コストの一つであり、合理的なものはしかるべく支払わないと、経営者の仕事を果たしたことにはならない、という意識は薄い。ここらあたりの啓蒙は会計士自身ももっと主張していかないといけない。監査というのは、経営上本当に付加価値を生まないものなのかどうか、ここのところは会計士にとっても大事な視点である。これがないと経営者を説得することもできない。もっと真剣に考えたほうがいい。監査の結果報告の内容は、現状多くのケースでは会計処理上の項目が多く、内部統制上、あるいは業務上の指摘事項はほとんどない。監査の独立性が、エンロン事件以降厳しく問われることになり、問題事項は文書に残さない、ということになって経営者にとって参考になるような話は出ない、また出そうにも会計士側にもそのセンスが薄くなり出せと言っても出ない、出す能力を鍛えていない、その観点がない、これでは監査は経営改善にとってなんら役に立たないという印象になる。ここのあたりを仕組みとしてどうしていくか、これは公認会計士協会にリーダーシップを取ってもらったほうがいいのではないだろうか。本来企業価値向上のためには、監査がどういう役割を果たすべきなのか、粉飾、不正を防止するだけの役割なのか、改めて原点を見つめなおす必要性はないのか。経営者、監査役、社外役員、会計監査人間のオープンなコミュニケーションはもっとできないのか、改めて議論してこれからの方向を見定めてみるべきではないだろうか。

以上の観点には、異論もあるだろうが、真剣に討議し、実務でどうしていくか、考えてみる価値はあると思う。

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