(1)会社法における株式交付制度
1.意義
2.株式交付手続き
なお、株式交付子会社が行う手続きについては、会社法上、特に規定はない。
(2)法人税法上の取扱い
株式交付は前述したように会社法上は組織編成の1つと位置付けられているが、法人税法上は、必ずしも移転事業の支配関係の継続を前提としていないところから組織再編税制に該当せず、株式の譲渡取引と認識されている。しかしながら、一方で現物出資や株式交換などの組織再編税制と類似したところもある(※1)。
そこで、適格組織再編同様、一定の要件(※2)を満たすことを条件に株式交付子法人株式の譲渡損益について繰延措置が講じられている(強制適用)(措法66の2)。
そこで、親会社株式のみが交付された場合には次のように①~③は同額となり、譲渡損益は生じない(令39の10の2③一)。
なお、一定の要件を満たさない場合は、通常の現物出資の規定が適用される。
(※1)株式交換制度と株式交付制度の比較
1.契約当事者
株式交換は株式交換親法人と株式交換子法人との間の株式交換契約であり、株式交換子法人の株主は契約の当事者とはならないのに対し、株式交付は株式交付親会社と株式交付子会社の株主との間の株式売買契約である。したがって、株式交付子会社は当事者とはならない。
2.株式譲渡益課税
株式交換は金銭交付を伴う場合には非適格株式交換となり、株式交換子法人の株主に対価として取得した親法人株式相当分を含めて株式の譲渡益課税が生じる(注)。
(注)金銭交付を伴わない株式のみの交付の場合は、非適格株式交換であっても株式の譲渡益課税は生じない。
一方、株式交付の場合は、金銭交付を伴う場合であっても一定の割合(20%)以下であれば、対価として取得した親会社株式相当分の譲渡益課税は生じない(繰延べ)。
3.子法人(子会社)の含み益課税
非適格株式交換の場合は、株式交換子法人に保有資産の含み益がある場合は評価益課税が生じる。
一方、株式交付の場合は株式交付子会社に評価益課税は生じない。
(※2)一定の要件
1.株式交付割合が80%以上であること。
(つまり、金銭等の交付割合は20%以下ということ)
2.株式交付直後の株式交付親会社が同族会社に該当しないこと。
次に、譲渡対価として株式交付親会社株式とともに金銭等の交付を受けた場合の税務上の取扱いについて、以下の設例で解説する。
【設例】
1.株式交付子会社の株主A社の課税上の取扱い
譲渡対価(収益の額)は次の算式によって計算される。
【算式】
次のように分解して考えると理解し易い。
①対価として取得したP社株式を時価(2,700)で計上する。
②P社株式に相当する譲渡益の課税を繰延処理する。
譲渡益をP社株式対価と現金の比で按分する。
③最終処理(①+②)
現金に相当する譲渡益部分は課税される。
また、設例におけるA社が完全支配関係のある他の法人B社にS社株式(譲渡損益調整資産に該当)を譲渡した場合には、譲渡対価とされる金額は、法人税法61条の2第1項1号 の金額(つまり、時価相当額)とされ、譲渡損益調整資産の譲渡損益が計算される。
2.株式交付親会社P社の課税上の取扱い
①取得したS社株式の取得価額
イ.50人未満のS社株主から取得した場合(本設例は株主はA社のみであるためこれに該当する)
A社の帳簿価額 × 株式交付割合 + 現金交付額 = 1,200
(1,000) (0.9) (300)
ロ.50人以上のS社株主から取得した場合
前期末簿価純資産価額 × 株式交付割合 + 現金交付額 = 2,100
(2,000) (0.9) (300)
②増加資本金等の額
イ.上記①イ.の取得価額(1,200)から現金交付額(300)を減算した金額(900)
(本設例はこれに該当)
ロ.上記①ロ.の取得価額(2,100)から現金給付額(300)を減算した金額(1,800)
以上により株式交付をしたP社の税務処理は次のとおりである。
<本設例はイ.>
なお、P社には確定申告書に以下の書類添付が必要である。