同族関係者の範囲
2016-11-22
Q. 「同族関係者」の範囲に、血縁関係のない会社が含まれることはありますか。
A
血縁関係のない者の会社を「同族関係者」に含めることにより配当還元方式による評価が否認された裁決例がありますので、紹介します。
(平成23年9月23日裁決)
http://www.kfs.go.jp/service/JP/84/17/index.html
本事案は、現在裁判所で争われているようです。
解説
(以下は、裁決文から筆者が推測した部分を含みます)
1.事案の概要
(1) 時系列
昭和25年9月 J社設立
平成16年2月 K社設立(資本金3百万円、発行済株式数3,000株)
平成19年6月 K社の株主(J社の役員・従業員10名)とJ社退職時にK社株式を1,000円/株(旧額面)にて譲渡をする旨の合意書を締結
平成19年8月1日 P2はK社へJ社株式725,000株を@75円/株(配当還元価額)にて譲渡
平成19年12月26日 P2死亡、P2の所有するJ社株式8%は相続人4名が2%ずつ相続し、各人が@75円/株(配当還元価額)の評価にて相続税申告を行った
平成21年11月24日 J社株主総会にてK社は議決権行使をP1へ委任
平成22年4月21日 F税務署による更正処分
平成22年6月16日 異議申立
平成22年9月14日 異議決定(一部取消)
平成22年10月12日 審査請求
平成23年9月28日 裁決(棄却)
(2) 資本関係図
(3) 株主構成
(4) 親族関係図
2.争点
「本件株式の評価に当たり、K社は財産評価基本通達188(1)に定める請求人の同族関係者に該当するか否か」
なお、P1は取締役であるが、財産評価基本通達188(2)に定める役員(役付き役員)に該当するか否かは争点とされていないため、本稿では同項の「役員」に該当するものとして検討します。
また、P3、P4、P5は請求人に含まれていないため、配当還元価額(@75円/株)が認められたものと考えます。
3.裁決の概要
(1) 認定事実
・K社は実質的にペーパーカンパニー
・K社の資本金は実質的にP2(被相続人)が出資した
・K社の株主はJ社の役員・従業員であり、J社退職時にK社株式を譲渡する合意書を取り交わしている
・K社の本店はJ社と同じ場所
・平成21年11月24日のJ社の株主総会決議にて、K社は議決権行使をP1へ委任した
(2) 審判所の判断
認定事実を総合勘案すれば、K社の出資者は、J社の創業者一族の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していた者と認めるのが相当であり、類似業種比準価額の@2,290円/株(大会社、従業員100人以上)にて評価をすることが妥当とされました。
4.事案の整理
事案を整理すると、
・K社の株主は、P1(請求人)と同一の内容の議決権を行使することに同意している者、とされた
・K社は、P2の同族関係者として議決権を合算して判定された
・その結果、P2の有するJ社株式の評価方式は、配当還元価額(@75円/株)から類似業種比準価額(@2,290円/株)へ更正された
となったのです。
下図は、財産評価基本通達に基づく配当還元方式の判定表です。
「同族株主」
株主の1人及び同族関係者の議決権が30%以上である場合のその株主及び同族関係者。
ただし、株主の1人及び同族関係者の議決権が50%超である場合には、その株主及び同族関係者のみが同族株主となる。
「同族関係者」
① 株主等の親族
② 株主等と事実婚の関係にある者
③ 個人株主等の使用人
④ 株主等から受ける金銭等によって生計を維持している者
⑤ ②~④の親族かつ生計を一にする者
⑥ 株主等、株主等と①~⑤の関係のある者、株主等と同一内容の議決権を行使することに同意している者が支配(持株比率又は議決権比率が50%超)している会社
「中心的な株主」
株主の1人及び同族関係者の議決権が15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独で10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主。
5.私見
本件は、一見通達に沿った判定をしたように見えますが、何がポイントであったのでしょうか?
自社株対策には経済的合理性と時間が重要であり、形式的な通達の適用は税務リスクが高いと考えます。
(1) 経済的合理性
・K社は実質的にペーパーカンパニーであったこと
・K社の株主はJ社の役員・従業員であり、J社退職時にK社株式を譲渡する合意書を取り交わしていたこと
以上から、K社は何のために存在しているのか、自社株対策以外の合理的な説明が困難と考えます。
(2) 時間
・平成19年8月1日 P2はK社へJ社株式725,000株を@75円/株にて譲渡
・平成19年12月26日 P2死亡、相続発生
以上から、P2のJ社株式の評価方法は、相続発生の4ヶ月弱前に類似業種比準価額から配当還元価額へ変更されたことになります。あまりに短期間の評価方法の変更は、違和感があります。
(3) 他の方法
それでは他に対策は無かったのでしょうか?例えば遺贈によって下図のように相続をした場合はどうなるでしょうか?
二次相続を考えて、P1が相続した株式相当分をP3、P4、P5の子(P13,P14,P15)へ均等に配布したと仮定します。
個人の取得後の議決権割合は5%未満であるため、株式を取得した者がJ社の役員でなければ、配当還元方式が適用できることになります。
(4.の図の赤点線の「その他」に該当します)
当然ながら、自社株対策はそれぞれの会社や家族によって事情が異なるため、本件においてどの方法が良かったか、などと言うことはできません。
一方で、自社株対策の税務リスクに対する判断基準を検討するうえでは、非常に参考になる事例であり、今後の裁判結果についても継続して確認していきたいと思います。